新横田基地公害訴訟団ニュース

第27号  (1999年 7月 1日)
教育施設/住宅が林立する八王子・日野の爆音地域で
      
7月6日に最後の(第3回)現場検証判の現状と今後の展開
弁護団事務局長  吉田 栄士

7月6日には最後の現場検証、7月22日には第13回裁判がおこなわれます。裁判は、これまでの空港騒音訴訟ですでに解決済みの「個別立証」(個々の原告によって被害に違いがあるのだから被害は個々別々に立証すべき)をせまってきており、この裁判で重大な反論をします。現場検証の意義については、弁護団事務局長の吉田弁護士に書いていただきました。

7月6日に3回目、そして最後の検証があります。今回は八王子と日野で、午後1時から5時までの予定です。八王子は久保山町の宇津木台団地で、昭島との境界近隣の丘陵を公団が開発した飛行直下の新興台団地です。日野は旭が丘地区で、ここも直下地域ですが、狭い地域内に保育園から大学までの教育施設、障害者施設などが多く立ち並び、その周りを住宅地が取り巻くというところです。いずれも、訴訟団活動の中心的な地域で、最後に検証する場所としては、最も適している地域です。まず、宇津木台スーパーアルプス前の、高層住宅パークヒル宇津木台の上階から全体を概観します。すぐ北側下に多摩川、遠くに昭島市中心地区が見えます。南側は宇津木台団地全体が広がり、近代的で整備された団地の様子が、よくわかります。飛行機はほぼこのパークヒルの真上を通るので、飛来するとすさまじい轟音が直下を覆う様が体験できます。次にパークヒルに近い原告栗原淑江さん宅で、本人尋問をします。栗原さんは自営業なので一日中騒音被害を受けていること、公団の募集を信頼し裏切られたことなどを訴えます。そこから五分位のところに「わらべうつき台保育園」学童クラブ、町会会館が並んでおり、それぞれの説明します。宇津木台の次に南下して、八王子市高倉町の国側申請の個人宅で、建物の防音施設を検証します。次に原告側は高倉町から日野市旭が丘一帯の教育施設を歩きながら説明します。都立八王子東高校から始まり、八王子市立高倉小学校、都立科学技術大学、日野市立希望の家、日野市立かしの木荘、日野市立つばさ学園、私立第七幼稚園、日野市あさひがおか保育園、私立第四中学校と歩きます。狭い地域の右左に教育施設が林立しています。この真上を軍用機が通過するわけですので、飛来すれば、その異常さを嫌でも体験できます。最後に旭が丘中央公園内の地区センターにいきます。ここでは日野市が騒音測定しており、市の協力を得て、担当者から説明してもらいます。今回は半日検証ですが、盛りだくさんの内容なので、軍用機の騒音が生活を脅かせている日常を体験し、被害を理解してもらうようにします。

騒音被害の救済求め
 自治体と懇談すすむ東京都・昭島市・八王子市・武蔵村山市・羽村市・瑞穂町
裁判勝利のために、周辺自治体の理解と協力が必要、との立場から、懇談会開催を申し入れ、東京都・昭島市・八王子市・武蔵村山市・羽村市・瑞穂町との懇談が実現しました。
◎被害住民の気持ちは理解している【武蔵村山市】
●「軍民共同化」は騒音被害を一層辛苦国【訴訟団】

6月30日、武蔵村山市との話し合いでは、市側から本間企画調整担当部長他2人、訴訟団側から代表幹事、事務局長ほか計6人と加納弁護士が参加しました。
加納弁護士が裁判進行状況の説明をおこなういっぽう、市側からは、横田基地の軍民共同使用問題の市長発言について、志々田市長は、無条件に共同使用に賛成したわけではなく、騒音問題への取り組みを前提として、「軍民共同化」に理解をしめしたものだと弁明がありました。市長もこれまで基地騒音に悩まされている住民の気持ちは十分理解しているとのことでした。山口代表幹事は、瑞穂町の八高線駅西側の開発が、飛行直下にあり都市計画がままならない悩みがあることを伝え、瑞穂町議会での共同化反対の決議となった経過を説明。騒音がいっそうひどくなる「共同化」は、訴訟団の立場からもなじまない、と発言。小板橋代表幹事は、騒音被害地域は、八王子市、日野市も含まれており、周辺自治体連絡協議会に両市が参加できるように働きかけて欲しい、と要請しました。

◎石原知事の「軍民共同使用」提案は材料不足で判断できない【羽村市】
●騒音問題で国、自治体、被害住民の話し合いの場を【訴訟団】

羽村市との懇談では、市側から中野企画総務部長ほか2人が出席しました。訴訟団、弁護団から裁判の経過報告と要請がおこなわれました。石原知事の軍民共同使用提案については、「あまりにも材料不足で、判断できる状況にはない」と、市の立場についての説明がありました。大野代表幹事より、「旧訴訟の裁判所の和解勧告にもあるように、騒音問題は、国、自治体、住民の三者が協力して解決することが基本と考える。羽村市としても今後とも騒音被害をなくすため協力して欲しい。」と要請しました。

●知事の被害認識は被害住民とかけはなれたもの、騒音を倍加する「軍民共同使用」は問題【訴訟団】
◎あなたがたの主張は理解できる【東京都】

5月31日訴訟団・弁護団は、横田基地周辺住民の騒音被害救済の立場から、石原慎太郎東京都知事への要望書を提出、あわせて記者会見をおこないました。
要望書は、「基地の返還もしくは民間との共同使用を実現し、首都圏に第三の空港を誕生させる」という知事の公約に対し、年間14000回にも及ぶ騒音被害の実態と旧訴訟から20年も続き現在も6000人の原告で争われている裁判の経緯を示し、「基地があまり使用されておらず、騒音被害も甚大なものではない」という知事の認識違いを指摘するとともに、知事の公約である「軍民共同使用」が騒音被害をいっそう甚大なものにし、墜落や落下の危険性を増すことに指摘し、訴訟団、弁護団とと知事の話し合いの場を持つように求めたものです。
要望書提出の際対応した東京都政策報道室の基地対策責任者との話し合いでは、「横田基地返還」の公約に期待し、「軍民共用」は絶対に困ること、それは、元環境庁長官の石原知事との会見できれば、納得いただけるものと信じている。と伝えました。都側は、「あなたがたの主張は理解できる内容であり、上に必ず伝える」とのことでした。

◎訴訟壇の話熱心に聞き「軍民共用空港ができれば住民が住める環境でなくなる」【瑞穂町】
●横田基地訴訟は、党派を越えた運動であり、騒音被害は、住民全体の問題【訴訟団】

<瑞穂町 幹事 岡口明>
町長との懇談会開催を3月に申し入れてありました。お互いの都合で、5月17日になりましたが、横田基地返還を公約に上げた知事の誕生や、軍民共用空港案に反対する瑞穂町議会決議が出された直後で、非常にタイムリーな懇談会となりました。当日、町長は、都合が悪く町側からは助役と企画課長が、訴訟団から代表2名(中杉・加納)の合計6名で、初めて助役室において行われました。冒頭、山口代表幹事からこの訴訟の経過説明、中杉弁護士からは裁判の現状と今後の展望を話していただきました。ちょっと硬い話にも関わらず、助役も企画課長も熱心にメモを取りながら聞いていました。そして、この訴訟で『騒音を何とかしてほしい』の一点で自民党議員から共産党支持者まで、分け隔てることなく参加していることを話すと「ヘエー」と認識を新たにしたように感心していました。加納弁護士からは補足として、私たちの裁判や運動は、当事者としては当然のことだが、騒音被害は等しく周辺住民に及んでいるので、自治体として国、都、さらに米軍に対して、色々な形で要請していただきたいと発言がありました。その後、ざっくばらんに話し合いとなりました。その中ででたことは、
@東京都が中心となって動いてくれるようになってから、ずいぶんと米軍の対応がよくなってきていること、
A瑞穂町役場に基地司令官が来た際、旋回中の自分たちのヘリコプターの音を耳にし、「うるさいね」と言ったエピソードのこと、
B基地拡張で町は分断、八高線は曲げられ、昭和51年に町になって以来、いまだに市になれないでいる町づくりの困難さのこと、
C新都知事が話題を提供した軍民共用空港ともなれば、航空機騒音の拡大のみならず、交通渋滞が一層激しくなり、住める環境でなくなるので町議会決議は的を射ていること、
D「物資投下訓練は危険なのでやめてほしい」との要請文を準備していた矢先の砂袋誤投下事件により急きょ「危険な訓練はやめなさい」との抗議文に変更したこと等々、自治体として横田基地に対する考えの一端を聞くことができました。そして、今回の私たちの申し入れについては、「行財政改革を強くいわれている中、困難な面はあるが理事者と相談しておきましょう。」とのことで、充分歯車の噛み合った話し合いとなりました。

◎「係争中の裁判」との理由で具体的な態度表明無し、今後も話し合う【八王子市】
●多くの住民が被害を受けている環境問題としてとりくんでほしい【訴訟団】

<八王子支部代表世話人  阪下 圭八記>
八王子市への要請は、4月7日、小板橋代表幹事、関島、松浦両弁護士はじめ5名の支部世話人が参加して行われました。市側は外川環境部長、福田環境保全課長が対応し、紹介議員横田氏も同席しました。まず、要請書が読み上げられ、何万という市民が被害を受けている米軍機騒音に関し、市は係争中の裁判だからという理由で傍観している。環境問題として積極的にとりくんでほしい。横田基地周辺市町の協議会へもこちらから行動を起こすべきではないか。等々の諸点が原告団、弁護団の参加者それぞれから強調されました。
約1時間の話し合いでしたが、市はもっぱら言い分を承っておくという様子で、要請事項の検討と後日の文書回答を約束して、この日は終わった次第です。
5月末回答があったものの、特記すべき前進面はみられません。ただ、今後情報交換の機会を適宜持つようにしたいとの要求については同意が得られています。
石原知事の「公約」めぐり訴訟団への取材続く
訴訟団は、被害住民の代表として、石原知事当選直後から、選挙中の「石原公約」について、十数回の取材を受けました。
メディアに回答したり、話し合う際は、都知事への「要請書」の内容にそって主張し、「過去の裁判で最高裁にも違法と判断された飛行実態がある。民間機の離発着が加われば九市一町、30万の住民はたまったものではない。」と主張し、マスコミの理解を求めました。
6月2日もテレビ局の取材がありましたが、瑞穂町長が必死に、「基地返還賛成、軍民共同使用反対」を石原知事に訴えるのを身近に聞き、被害住民を代表とする訴訟団としても石原知事に直接訴えたいと強く思いました。


「良い教育の重要性はどこでも共通、高校入試時は飛ばない」
                        約束破り高校入試時も轟音
横田基地の米軍が自らの約束を無視し、公立高校の入試日にも通常通り爆音を巻きちらかしていたことがわかりました。
周辺自治体や訴訟団の要請に応じ、米軍横田基地は、「東京都と神奈川、埼玉県の公立高校入学試験の時間帯は飛行を停止してほしい」との日本側の要望に応じる、と発表。2月16日、23日、25日の3日間の入試の時間帯のすべてで、緊急医療搬送など、予期できない場合以外は飛ばさないとし、基地司令官のマーク・A・ポルチェフ空軍大佐は「良い教育の重要性はどこでも共通であり、我々はこどもたちが最善をつくすあらゆる機会をもてるように望んでいる。彼らの幸運と成功を願う。」との談話まで発表していました。
しかし、実際には16日には49回、23日には63回、飛行、午後3時まで飛ばなかったのは25日だけでした。とくに、23日10時から11時の間は、70デシベル以上の騒音が16回も観測されており、通常以上のうるささでした。
(昭島市拝島第二小学校の測定による)
ハーグ市民平和会議に参加して
弁護士  伊藤 和子
今年5月に開かれた、HAP99―ハーグ市民平和会議に参加してきました。この会議は世界の平和を願い、活動する・NGO(非政府組織)が約1万人参加して、21世紀、そしてこれからの1000年に向けて、平和を創造していくために市民が何をするか、を熱心に討論した会議でした。核兵器使用を国際法違反とする国際司法裁判所の勧告的意見が出たり、市民運動の中で対人地雷禁止条約が実現したり、という最近の大きな変化の中で開催されたこの会議では、「軍事・外交・平和の問題は超大国の独壇場ではない。市民社会が力を合わせれば実現するために世界を変えうるのだ」という活発な意見が相次ぎました。

私が特に今回嬉しかったのは、日本からの会議参加者たちの共同でした。ハーグ会議では、日本からの参加者が「ジャパン・デー」を開催し、ここに、日本で平和のために活動する非常に幅広い多数の団体が一同に会したのです。当日は、太田前知事、土井たか子氏、広島・長崎市長も参加し、狭い会場が立ち見も含めてすし詰め状態となり、たくさんの参加者が思い思いに訴えを行いました。ここで、基地被害問題について沖縄の人たちなどと一緒に、横田の裁判のことを訴えました。横田の報告では、外国からの参加者も含めて、基地被害についての大きな驚きと私たちの裁判への共感が感じられました。

私が感動したのは、日本中の至る所に、核兵器をなくしたい、基地被害を終わらせたいと本当に切なる思いを抱え、草の根の活動をずっと続けている人たちがいかにたくさんいるか、ということでした。これまでこういう活動とのネットワークが全くなかったことを非常にもったいなく思いました。ハーグ会議でこうした人たちと交流したことを貴重な財産として、もっと広いネットワークを作っていく必要があることを実感しました。


「騒音被害は体験しないとわからない」 基地見学の東大生から礼状届く
5月22日には、わたしたち川人ゼミ(東京大学法と人権ゼミ)の学生に、たいへん貴重な話をしてくださり、ありがとうございました。
幾度となく繰り返されるタッチアンドゴー訓練による騒音のすさまじさは、現地に行かなければ決して体験できないものでした。
横田基地の共同使用を公約にした石原新都知事が圧倒的な支持を得て当選したことは、横田の現状がいかに認知されていないかをあらわしています。
しかし、全国が石原知事に注目するいまは、横田を全国に知らしめる好機となったのでしょう。今回、現地を知ることの大切さをあらためて実感しました。実感をより多くの人々に広めたいものです。
貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。


アメリカを被告にしないのは憲法違反
対米訴訟 上告のポイント
弁護士  加藤 健次
昨年12月25日、東京高裁はアメリカ政府に対する訴えは不適法であるという不当な判決を出しました。この判決に対しては、直ちに上告をし、先日詳細な上告理由書を提出しました。上告理由のポイントを三点にしぼって簡単に説明します。
第一に、高裁判決は、憲法が、保障する裁判を受ける権利(憲法32条)を否定するものです。
国に対する夜間飛行差止請求は「筋ちがい」として否定しており、アメリカに対する請求は「裁判権が行使できない」というのでは、結局、横田基地で米軍がどんな違法なことをしても、裁判でその是正を求めることはできなくなってしまいます。
第二に、高裁判決は、日本とアメリカとの対等平等な関係を否定するものです。
横田基地の米軍は、日本とアメリカの合意によって、わが国の領土に駐留しています。ですから、明確な合意がないかぎりそこでおこなったことについては、わが国の主権が及ぶはずです。これは、主権の平等を原則とする今日の国際社会の常識です。ところが、高裁判決は、地位協定に決まりがないのに、日本が「民事裁判権を放棄した」という日本の主権を無視する判断をしたのです。
第三に、高裁判決の結論は、国際的な人権保障の流れに逆らうものです。
一人ひとりの人権はかけがえのないものであって、国際的にも普遍的な価値をもっています。ですから、人権侵害に対しては、当事者が外国国家であるからといって、裁判で救済できないのはおかしいというのが今の国際法の流れなのです。
このポイントは、多くの人に理解してもらえるものだと思います。世論にも訴え、最高裁に正しい判断を追っていきましょう。

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