新横田基地公害訴訟団ニュース

第28号  (1999年 9月24日)
裁判の現状と今後の展開
弁護団事務局長  吉田 栄士

9月30日には第14回目の裁判が行われますが、裁判も終盤に入りました。
訴訟団として裁判勝利に向け、運動のさらなる発展をめざしていかなければなりません。そこで現在の裁判の状況と今後の動きを、今一度整理する意味で、弁護団事務局長の吉田弁護士に書いていただきました。

96年4月の第一次提訴以来、3年と5ヶ月がたちました。この間、原告は6千名と増え、裁判は7月の裁判で13回を重ね、証拠調べも終わり、検証も予定通り3回終了しました。
いよいよ最終盤です。 今、騒音裁判は小松、厚木、嘉手納と、原告数を拡大した大型訴訟の時代に入っています。その最先端をいっているのが横田基地訴訟です。
ところが、国はこの最終盤になって、国の不利が予想される判決を遅らせようとしています。国は、勤め人、学生など昼間いない者と主婦、老人のように昼間いる者とをグループ分けし、被害の程度による被害立証せよとか、うるさいところに移転してくるのは「危険への接近」だとして、賠償額の軽減や時間稼ぎをねらってきています。
それは、横田の裁判が早期結審し、住民が勝訴すると、他の裁判に大きな影響を持つことになるからです。今、弁護団はこの国の作戦に対し、大きく反論する準備をしています。
8月末に弁護団では合宿をしました。早期結審のため何を主張するべきか、国の作戦、主張に対しどう対抗反論するか、労力をかけた陳述書の内容をどう活用するか、国が言うように横田の被害が軽減されてきたかなど、広い範囲の問題を論議しました。
被害の程度によるグループ分けの問題はすでに反論を出していますが、あらためて、私たちの請求は最小限度の共通した被害の賠償請求であること、このことは最高裁判決でも認められ、解決済みの問題であることを、内外にアピールしようと確認しました。
「危険への接近」論については、嘉手納では沖縄という基地集中地域の特殊性から裁判所はこの考えを認めませんでしたが、横田についても同様に認められない理屈だと言うことを強調することになりました。首都東京の住宅密集地にいまだに米軍基地があること、最高裁でも飛行は違法だと認めていること、その違法地帯を放置しておいて、近隣に移転してきたものに対して、「危険への接近」という言い方はいかにもおかしい。
むしろこれは「危険の居座り」であり「危険への誘致」である。国の言う危険への接近という本来本末転倒な理屈に対し、私たちはこれを逆手にとって、市民の常識論で論陣を張ることにします。
また国は被害は日米合意以降少なくなったと言いますが、実際は被害は変わりません。これはみなさんの実感でありますが、騒音統計もこれを実証しております。この実態も主張、立証していきます。
弁護団は11月にも合宿をします。これは最後の準備書面を作成するための合宿です。
本年度中の結審、来年春の判決をめざし、弁護団、訴訟団ともどもがんばりましょう。

第14回裁判に参加しましょう
9月30日(木)
時 間  午前10時~10時半
会 場  東 京 地 裁
      八王子支部401号法廷

傍聴席をいっぱいに
事務局長 遠山 陽一

いつにも増して、大事な裁判です。年内結審をめざして弁護団も合宿をして、充分な体制を確立しました。
私たち訴訟団も先生方の確信に触れて励まされました。国は引き延ばしを考えているようですが、傍聴席を満杯にすることが、それを許さないことになります。
裁判官にも私たちの熱意と誠意を示すことが大事な時になりました。忙しい時期ですが、万障繰り合わせてご参加ください。

最終現場検証も終了 八王子・日野地域
これで予定していた3回の検証は終了しました。大変広い範囲にわたっており、住宅地あり、文教地域あり、高層住宅ありで、さまざまな住宅密集地域の真ん中に、騒音被害地域が存在している事を裁判所に認識してもらうことができたと思います。
今回も住宅密集地をまわりましたが、当日はほとんど飛びませんでした。しかし、どういう地域かということはしっかり認識できたはずですし、騒音地域内の裁判所で執務する裁判官は、飛行騒音を予想することができたのではないでしょうか。


▼怒り沸きでる検証
日野支部  樋口 怒

裁判の進行と共に最後の現場検証が七月六日、日野市で行われました。 検証コースは学校や、福祉施設が集中している、旭が丘福祉ゾーンを中心に行われました。
八王子から検証実施を終わった一行が都立八王子東高校に到着。
「新横田基地公害訴訟、現場検証」の看板を持って日野原告団、弁護団が出迎えました。
 いよいよ日野の飛行直下の騒音実態を裁判官に知ってもらい、その中で生活している実状を訴える検証が始まりました。 出発点から100名近い原告、弁護団が長い列で歩き、途中、「私立希望の家」では園長さんの案内で裁判長に中に入ってもらい、防音工事もしていない建物での障害を持つ幼児保育の様子を訴えました。
今日はなぜか飛行機の騒音が少なく気になっていたところ最終盤、旭が丘地区センターに近づくとき、六丁目交差点付近で大型ジェット機が黒い機影と騒音を頭上に残していきました。
地区センターでは、市の職員二名による日野市の測定器と記録の説明があり、現場検証は終了しました。
今まで、気づかなかった屋根の上の黒く丸い集音マイクを見ていると、続けて飛行が始まり、不法な騒音被害の怒りが沸きでました。


▼生きるから、訴える声
八王子支部  良岡 千里
八王子地域は四地点の検証が行われました。
当日、多数参加された原告は大きな輪になり順次移動しました。 この時ならぬ人々の輪に驚きながらも、周辺住民の方々は、八王子地裁が行っている現場検証と分かると「今日は飛行機が飛んでこないと思っていたら、検証の日だったのですか。毎日検証に来てもらいたい」との声をかけてくれました。
また、この地域が本当は気持ちのよい住環境だと、私は歩きながら感じましたが、この時間に米軍機の飛行がなかったからこその認識なのだと思いました。
検証地点の原告の方からは「日常的には決して聞きたくない航空機の騒音。だが、この日は実態を知っていただくために飛行を待った」と感想が寄せられました。
裏腹ですが、騒音にさらされている住民の強く訴える声なのです。

『対米訴訟』  舞台は正式に最高裁へ
弁護士  土橋 実
アメリカに対する裁判は、すでにご報告のとおり、昨年12月5日に東京高等裁判所で訴えが退けられたあと、直ちに最高裁判所へ上告いたしました。
その後弁護団では、上告理由書を作成し提出いたしましたが、このたび正式に最高裁判所が受理し、第二小法廷で審理が行われることになりました。
事件番号は上告事件が平成11年(オ)第887号、上告受理事件が同(受)第741号です。
今後は最高裁の審理にあわせて、専門家によるシンポジウムの開催、法律専門誌に対米訴訟の特集企画を組むことなどを予定しています。
弁護団は引き続き、日本の裁判所がアメリカ政府を呼び出し、日本の法廷でこの問題を審理するよう求めていきます。

裁判勝利に向け運動を盛り上げよう
訴訟団提訴3周年記念集会の成功を
提訴3周年記念集会 十二月五日(日)福生市民会館にて
代表幹事  大野 芳一

わが横田訴訟は提訴以来3年を経過し、いよいよ結審へ向けて、最後の追い込みの段階に入りました。
一方、今春都知事となった石原慎太郎氏は、当初の公約である「横田基地返還」を「軍民共用空港化」にスリ替え、その推進を図っています。
訴訟団としては、来る12月5日に提訴三周年記念集会を行い、さらなる運動の発展を期しています。
私たちは、こうした状況を踏まえ、今後の運動の在り方について、去る8月末の弁護団合宿会議で討議し、「訴訟活動と軍民共用空港化反対の住民運動を結合して発展的に運動を進めることが必要」との認識のもとに次の確認をいたしました。

◎公正判決をめざす署名活動を
裁判の最終段階にきて国側は、被害の個別立証の要求を鮮明にしています。
この裁判引き延ばしの狙いをはね返し、早期結審、公正判決実現のため、署名活動を展開します。最高裁へ上告中の対米訴訟についても実施します。

◎軍民共用空港化に反対する署名活動を
石原都知事の「横田基地の軍民共用空港化」方針は、墜落の危険、騒音被害などの増大をもたらし周辺住民にとって極めて重大な問題であり、早急に反対署名に取り組む必要があります。    

◎提訴三周年記念集会成功へ
騒音訴訟は、横田・厚木・小松・嘉手納と全国四つの基地(米軍・自衛隊)で進められ、夜間飛行差し止め・損害賠償を求め、次々と多数の原告が訴えて、国を包囲しています。
また、横田に続き、嘉手納でも国・アメリカを被告として、5千人規模の訴訟準備に入り、被害解決に取り組んでいます。
よって、旧訴訟を土台に新たな展望を切り開くため、全国の訴訟団が一堂に会し、連帯と団結を固めていかなければなりません。その一つの場にもなっていきます。

今でも違法状態 ―横田と羽田を比較して―
石原都知事は、横田基地を「軍民共用空港化」として都民、他県民の利便に供し、併せて経済の活性化を考えています。 しかし、周囲を住宅地域に取り囲まれ陸の孤島と化した横田基地の現状を羽田空港と比較すれば、下表のとおり一目瞭然、環境条件は極めて悪いのです。

☆飛行回数が羽田の方は圧倒的に多いのですが、環境基準の達成度は2年連続百パーセント(滑走路の沖合移転と飛行規制等の成果)に対し、横田では飛行規制及び運航方法の制限をしていないため、最高裁判決で違法とされていても達成度はゼロです。 

☆夜間・早朝(夜10時から翌朝7時)の騒音状況は、羽田では大森四小で97年2回、ところが横田では97年395回と騒音回数が圧倒的に多く、また騒音も高く、眠れない夜をハッキリ数字が物語っています。

基地返還に関する意見書 都議会が決議
99年7月14日、東京都議会は「横田基地・多 摩サービス補助施設の返還に関する意見書」を全会一致で採択し内閣総理大臣及び関係大臣に提出しました。
意見書は「都内にある八カ所の米軍基地の返還は都民の長年の願いであり、基地及びその周辺において、騒音等の問題や地域の街づくりの障害となっている ことから、東京都は返還とそれまでの間、都民解放のための措置を」と強く要請しています。

今後に生かしたい訪米行動
八王子支部  後藤 葉子
昨年、日本国際法律家協会の呼びかけによる、第三次訪米・要請行動に参加してから早くも一年がたちます。
今回は、ワシントン、ボストン、サンディエゴの各コースにわかれ、政府関係への要請をはじめ、各地での市民団体との交流に加え、法律大学での公開シンポジウムや、五番街でのデモンストレーションまで行うという多彩な行動でした。
各地での交流は、どこでも大変有意義なもので、「日本で米国の軍事基地がどんな被害をもたらしているのか」を「初めて知った」「あなたがたの要求は当然です。」「私たちにできることはないか」など、力強い激励を受けました。
私は、ペンタゴンと国務省で直接基地周辺の住民代表として、①昭島市の拝島第二小学校に影を落とす米軍機の写真を示し、子どもたちと住民がいまも危険にさらされていること、ニューヨークタイムス紙の意見広告を紹介し「眠れる夜をとりもどしたい」と提訴していること、②訪米は3回目になるが、在日米軍司令官が住民代表と会おうともしないなど、これまで要請してきたことが改善されていないのはなぜか、③米国内で規制されている低空飛行制限や、人口密集地での飛行制限などを日本でも適用してほしい。の三点にしぼり、「私たちにはここがふるさとであり、安全に暮らしたいのです。」と訴えました。
大変貴重な経験をさせていただき、今後に生かしたいと考えています。

『どこに住めというのか』  厚木基地訴訟控訴審判決について
弁護士  関島 保雄
東京高等裁判所は7月23日、厚木基地公害二次訴訟控訴審判決で「基地騒音を知って騒音地域に転入した」事を理由とするいわゆる「危険への接近」論で賠償額の減額を認めたばかりか、原告の一人については、騒音地域から一旦騒音地域外に転居して、再度騒音地域に転入した以降の賠償金を一切認めない判決を出しました。
この判決は再転入の際には騒音被害を知りながら、被害を我慢(受認)する認識の下に再度騒音地域に戻ってきたのであるから、身体的被害ならともかく日常生活被害程度の被害の場合には損害賠償を認めないとした大変ひどいものです。
厚木基地の一審判決は、厚木基地周辺では夜間着艦訓練が始まった昭和57年以降の騒音はそれ以前と比べものにならないくらい激甚になったから被害を知って転入したことは認められないとして危険への接近を認めませんでした。
また、最近では沖縄の嘉手納基地訴訟の控訴審判決も沖縄は基地だらけで住民が騒音を回避して住居を求めることは困難であるので危険への接近は認めないとしました。
このように最近裁判所は、危険への接近論に対しては制限的で否定的な対応をしていたのです。 騒音被害を受認して住居を決める人はいません。皆、住んでみて初めて騒音の酷さを知ったと訴えています。これが本当の住民の声なのです。
私は今回の厚木基地訴訟の控訴審判決を聞きながら、13年前の厚木基地第一次訴訟控訴審判決を思い出しました。
このときは日常生活程度の被害は軍事公共性と比較すれば受忍限度の範囲であるとしてすべての損害賠償を否定したのです。裁判官は基地騒音被害を理解しないばかりか、被害住民に反感を持っているとしか考えられませんでしたが、今回の判決に対しても同じような思いを抱きました。
私たち横田訴訟は13年前、同じ東京高等裁判所で控訴審を闘っておりましたので住民全面敗訴の厚木基地訴訟判決を聞きながら絶対にこの判決をうち破ろうと決意を固めました。
そして、厚木判決の軍事公共性優位論を打破し見事翌年同じ東京高等裁判所で賠償に関しては住民全面勝利の判決を勝ち取りました。
結審を控え来年には判決が出る予定の横田基地訴訟では、絶対に賠償を免責するような間違った危険への接近論は打破しなければと考えています。
特に八王子宇津木台地域では、豊かな緑の山を開発して売り出した公団住宅が騒音地域であるなどとは、住民は知らずに移り住んできたのです。 外国では、騒音地域には住宅を建てさせないとか、防音工事を義務づけるなど住民が転入する場合は騒音地域であることを周知させています。
これに比べ日本では何も知らされていません。このように危険への接近論がいかに間違っているかを荘証人で論証しました。
この横田基地訴訟で危険への接近論を13年前と同じように絶対に打破しようではありませんか。

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