新横田基地公害訴訟団ニュース

第29号  (1999年11月 9日)
原告らのグループ分け許さず
弁護士  中杉 喜代司
一、航空機騒音被害の特殊性
飛行機による公害被害は、非常に広範囲の人たちが同じ飛行騒音を聞いて生じます。その被害はテレビ・電話が聴えない、イライラする、眠れない、体調が悪くなったといった様々な形で、しかも多かれ少なかれ、住民の誰もが共通して受けています。
ところが、同じように「公害」といっても、水俣病とか、大気汚染による喘息とかは、同じ魚を食べ、同じ空気を吸っても、病気になる人とならない人がいます。この場合、公害患者として裁判の原告になれるのは、病気を患った人だけです。 しかし、航空機騒音による「公害」では、騒音地域に居住しているすべての住民が起こすことができるのです。

二、共通損害
横田基地周辺の騒音地域居住者は20万人を超えています。大勢の被害者が一人一人の被害を個別に主張、立証していたのでは、裁判は何年かかっても終わりません。
そこで、住民が航空機騒音によって受ける様々な被害を、精神的損害に対する慰謝料という形で請求することにしました。
例えば、眠れないからイライラする、体調が悪いのでイライラするといった具合です。これならばすべての住民が程度の差こそあれ、共通した被害を受けています。
このようにして、裁判ではすべての原告が被っている最小限度共通した精神的被害を「共通損害」として、請求しています。 この「共通損害」の主張によって、原告が多数となっても訴訟を短期間に終了させることが可能となるのです。この「共通損害」の考え方は、大阪空港訴訟をはじめ、最高裁、下級審でのすべての航空機騒音訴訟で認められてきました。

三、原告のグループ分け
ところが、被告国は、原告らの被害が共通していないとして、原告らを被害ごとにグループ分けをすべきだと主張しています。例えば、赤ちゃんには大人のような「知的作業」の妨害はないとか、病気療養中の被害は病気の人だけの被害だと主張しています。
また、会社や学校に出かける原告と、一日中騒音地域で暮らしている原告とをグループ分けすべきだとも言っています。
このような主張を行った被告国の意図は、損害賠償が認められる原告を少なくしよう、損害賠償額を減らさせよう、さらにグループごと立証させることによって、訴訟を引き延ばそうとしているのです。

四、国のごまかし
被告国の主張は、一見もっともらしく見えますが、「赤ちゃん」だって「考えている(知的作業)」のです。また、元気な人だって風邪をひけば、騒音が一段と辛く感じられます。飛行騒音によって受ける精神的損害は、程度の差こそあれ、共通しているのです。
そのため、被害によって原告らをグループ分けする必要はありません。これまで、どの判決でも、そのような取り扱いをしていません。
次に、騒音地域に昼間いる人といない人とでグループ分けしようという国の主張ですが、まず騒音地域にいる時間は、原告ごとにすべて違っており、グループ分けすることなどできません。
また、騒音被害は一機ごとにまったく分断して生じているのではなく、各騒音による被害が複雑に絡み合って様々な被害として表れるのです。夜間の騒音でも、一日中家にいる人の感じかたと、勤務から帰ってくつろいでいる人とでは、同じだとはいえません。
このように複雑に生じている騒音被害を精神的損害のフィルターを通して、最小限の共通被害として認められてきたのです。それを国は、強引にグループ分けしようとしているのです。

五、「夜だけのコンター」
被告国は、原告らをグループ分けしてどうしようというのでしょうか。 国は、昼間の騒音記録をまったく無視した夜間騒音だけの「コンター」をひこうとしています。「コンター」というのは、防音工事の地域分けのために、被告国が騒音の測定結果に基づいて地図上に引いた線です。ご存知の75W、80W、85W、90Wといった地域を分ける線です。
しかし、国がひこうとしている夜間騒音に基づく「コンター」は、今までの「コンター」とはまったく関係ありません。
同じ家族の中に違うW値の人が存在してしまうもので、そもそも「地域分け」といった「コンター」の本質に反するものです。このような思いつきだけに、グループ分けされる原告らがどのような被害を受けているか、
研究も調査もされていません。こんなでたらめの「コンター」を許しては、裁判が大幅に遅れることは間違いありません。

六、みんなの力で早期結審を!
このように、被告国は、新しい主張をして、訴訟を遅らせようと企んでいます。このほかにも「危険への接近」を理由に、新たに大量の原告本人尋問を要求したりもしています。
この国の不当な要求が阻止できれば、あとは最終準備書面だけです。早期結審をめざして、署名運動をともに頑張りましょう。


第15回裁判に参加しましょう
12月9日(木) 10時〜11時
東京地裁八王子支部
401号法廷


裁判引き延ばし、軍民共用許さない ―三周年記念集会成功を―
取り戻そう静かな夜
代表幹事  大野 芳一
1996年4月第一次訴訟、ついで97年2月第二次訴訟を提訴し、早3年が過ぎました。
この間、対米訴訟は分離され、その取り扱いについては最高裁判所での審議に映っています。他方、国に対する裁判は、すでに14回の弁論と3回の現場検証により私たち原告側の訴えるすべての立証を終え、結審へ向けての準備に入りました。
ところが、国は結審目前になって新たな主張をし、裁判の引き延ばしを図るなど、許しがたい態度をとっています。
また、石原都知事は横田基地の「軍民共用空港化」を周辺住民の同意もなしに強行すべく、10月27日、調査報告書(シュミレーション結果)を発表するなど容易ならぬ状況となってきました。
こうした状況を背景に、提訴三周年記念集会を行い、『裁判引き延ばし、軍民共用空港化を許さず、静かな夜、平和な町を取り戻そう』を合い言葉に各地の騒音訴訟の仲間と団結し、勝訴及び軍民共用空港化阻止の運動を発展させることにしました。集会には文化行事も入れ、楽しく行う予定ですので、多くの参加をお待ちしています。


裁判傍聴記
▼早期結審へ!国は訴訟を引き延ばすな

9月30日、秋晴れの中いつもの401号法廷、今回もほぼ満席、終了後は桜の落ち葉が始まりつつある明神公園へ。 しかし、国はいったいどういうつもりなのだろうか。12月に改めて「資料」を出すと明言した。 ここまで着々と訴訟は続けられてきた。八王子地裁では格別新しい点を争っているわけではない事は、我々素人にもわかろうというもの。こうした国の対応は一体何であろうか。
横田以外にもうち続く、大型(大規模原告団)訴訟への防波堤とせんために汲々としているのであろうか。今回は「危険への接近」「夜間・早朝の飛行」につきこちらの準備書面の要旨説明がなされ、そうした被告の態度に、ジャブを与え出鼻をくじく活動がされた。  
福生支部  片桐 善衛
▼被害と犠牲の大きさをわかってほしい

横田基地周辺の環境基準が羽田と比べても、いかに劣悪な状態におかれているのかが今回の裁判でハッキリとわかりました。航空法も無視して飛行する米軍の横暴に本当に怒りがこみ上げます。先日は学校の先生から、朝の朝礼時に何機も続けて飛行機が飛び、校長先生の話が聞こえない。何を言っているのかがわからなく、朝礼にならないとの苦情が寄せられました。成長期の子どもたちが騒音によりどんなにひどい状況に置かれているのか、もっと考えてもらいたいと思います。
10月28日には、都の軍民共用に対する調査書が報告されましたが、今より飛行機が増えても防音工事で充分対応できるなどと、まことに無責任なものです。単に経済効果だけで判断する事は危険なことです。そのかげで、どれだけ大勢の人が危険と犠牲を強いられているか、痛みを分かち合えるクリエイテイブな感覚が鈍っているのではないでしょうか。
瑞穂支部  大坪 たづ子

シンポジウム『軍民共用空港化構想を検証する』盛況に行われる
去る10月29日、四谷の主婦会館でシンポジウム「石原都知事の横田基地軍民共用化構想を検証する」が、新横田基地公害訴訟団も主催者団体に名を連ね、行われました。この日はちょうど、東京都が軍民共用空港化に対する調査を発表した翌日にあたり、NHKの取材もありました。
5名のパネラーがそれぞれの立場から報告しました。軍事評論家、西沢優氏は、米軍の世界戦略上、ますます重要な指令拠点として強化され、秘密が充満する横田基地は、民間を受け入れるはずがないと。また、乗員組合を代表して全日空の村中哲也氏も、今でさえ「軍事優先」で危険な日本の空。首都での共用は危険そのもの。我らが盛岡弁護士は騒音測定データに基づき、報告書の矛盾を指摘。自治研の大和田氏、都職員の市川氏の報告も、我々の運動に貴重な示唆を与えるものでした。吉田弁護団事務局長、大野代表幹事は「公正裁判促進」「軍民共用空港化反対」の要請署名の重要性、緊急性を訴えました。
   小板橋 稔市良

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