新横田基地公害訴訟団ニュース

第43号  (2002年6月3日)
『判決』 被害は認めたが差止の願い届かず
新横田基地公害訴訟弁護団事務局長  吉田 栄士
5月30日、6年余りの裁判を経て、判決が言い渡されました。
国は原告らに損害賠償として約24億円を支払え、というのが判決の柱です。
一番被害の少ない75Wの被害地域についても認定を受けることができました。それでこのような多額の損害賠償金となりました。損害賠償が認められたことは大きな成果です。
損害賠償の内容である「被害」について、裁判所は、睡眠妨害、難聴・耳鳴りなどの身体的被害の可能性、心理的、情緒的被害、会話や電話の中断などの日常生活妨害、騒音がストレスの原因となりうることなどを認定しました。
しかし、手放しで喜べるものだけではありませんでした。
本来、私たちの求めた損害賠償は原告すべてに共通する最低限の被害についてです。ですから、誰もが賠償を受けるのが当然です。しかし、裁判所は被害について、陳述書を提出していない原告の賠償を否定しました。
簡単に作成できるのに作成しなかった者は認めないというものです。
これは初めての判断ですが、このような懲罰的な言い方でおかしいと思います。陳述書を出していなくてもうるさいことに変わりありません。
また、危険への接近ついても新しい判断を示しました。本人尋問を採用したのに裁判所に出頭しなかった原告は、裁判所で弁明を述べる機会を拒否したわけだから、損害を請求することはできないというものです。これもまたおかしな理由です。裁判所にいけない事情があるので行けなかったのですから、これにもペナルティーをつけるというのは、国の言い分を丸呑みしていると言って過言ではありません。
また、危険への接近時期として、1966年1月1日以降に住み始めた者について、認定額を減額しているのも納得できません。1966年というのは36年も昔のことです。そんな昔の時期を基準日とするのはおかしいと思います。
さらに将来請求を認めず、また、夜間早朝の飛行差止も認めませんでした。
多額の損害賠償は認められ、これは大きな成果ですが、いくつかの点では、裁判所の姿勢に冷たさを感じます。6000名もの住民が何故裁判に立ち上がったのか、この点を直視する姿勢が裁判所にはかけていたと思います。この裁判所の姿勢をきちんと正す必要があると思います。
また、この日同時に、1997年、98年に提訴したアメリカに対する裁判についても判決の言い渡しがありました。この判決は4月12日にあった1996年提訴分の最高裁判所の判決をそのまま踏襲したものでした。米軍機の離着陸は公的活動で主権的行為だから、アメリカに対しては裁判できないという理由で私たちの請求を却下しました。
これも不当判決です。これだとアメリカには何も言えないということになってしまいます。
今後とも対米訴訟について、嘉手納基地訴訟、上瀬谷通信基地訴訟と連帯して、裁判所に門戸を開かせるよう頑張ります。


『静かな夜』へのたたかいはこれから
5月30日の判決日行動には、訴訟団、弁護団支援の方々、約250名が集まり判決にのぞみました。報告集会では、弁護団からの説明に怒りがひろがり、感想を話す原告たちからは一様に、静かな夜を取り戻すまで頑張る決意が見えました。

▽福生支部(松岡)
初めて裁判所に来た。うるさいのを何とかしてもらいたかったから原告になった。それがとれないのは情けない。賠償をもらうのは当たり前。毎日被害を受けているんだから。

▽八王子支部(平)
賠償とれて安心したが、弁護士の話を聞くと非常に厳しい判決だ。どう闘ってきたのか、これからどう闘うのか真剣に考える必要がある。

▽昭島支部(嘉陽田)
何のために法廷に入ったのかわからない。被害者に対して話したとはとうてい思えない。夜飛ばなくなるまで頑張るしかない。

▽八王子支部(遠藤)
初めて傍聴した。記号ばかりで何もわからなかった。原告にわからないような判決を言うのが裁判所というところか。

▽瑞穂支部(大坪)
被害は認めるというが、将来請求がだめなら基地ある限り一生裁判をしていなくてはならない。

▽福生支部(島田)
差し止めとれないのは理解できない。被害があると認めたのなら止めさせるべきだ

▽日野支部(川島)
差し止めが一番の願いだ。賠償とれたからといって喜んでいられない。減額の理屈など被害者にとってはヘリクツだ。加害者の理屈だと思う。

▽昭島支部(野田)
30年もこの裁判にかかわっている。いつになったら、夜飛ばなくなるのか。防音工事への一律の減額は理解できない。何十年前の工事なんか、今は効果ない。エアコンの電気代もこちら持ちだ。

▽東京大気汚染裁判副原告団長
判決を下した人、そして被告は被害地域に住むべきだ。そうしたらあんな不公平な判決を出せないはず。

▽公害総行動運営委員長賠償が認められたということはすなわち米軍の飛行に非があるということだ。「眠れない夜」という不当な環境を子どもたちに残すことはできない。今の大人の責務としてともに頑張る。

▽立川労連議長
従来の判断の域を出ていないのは残念だ。6000という原告数はこれからの運動の足がかりを作った。


声    明
  本日、東京地裁八王子支部において、新横田基地公害訴訟について、国に対し騒音被害による損害賠償を命ずるとともに、アメリカ合衆国に対する訴えを不適法とする判決が言い渡された。
本判決は、すでに最高裁判所でその違法性の判断が確定している横田基地における米軍機の騒音について、重ねて違法性を認定し、被害住民らの救済を認めたものであり、特に原告数約6000人というかつてないほどの大規模訴訟において国に対して24億円という巨額の賠償を命じたことは、在日米軍基地のあり方について見直しを迫る判決として評価すべきものである。
  しかしながら、本判決は陳述書が提出されていない被害住民については被害そのものの立証がないとして賠償請求を棄却した。これは、現に被害地域に居住することで騒音被害を被っていることは明らかであるにもかかわらず、その請求を棄却したのであって、明らかに証拠を見誤った判断である。
  また、本判決は、基地周辺住民の切実な願いである夜間早朝の飛行活動の差止を認めなかった一方で、4月12日の最高裁対米訴訟判決を無批判に踏襲し、アメリカ合衆国政府に対しては裁判所への出頭すら命ずることができないとしたものであり、結局は今日現在も続く違法騒音を放置するしかないという不当な結論を導くものであって、法治国家の名に悖る判断というほかはない。
  また、本判決は違法騒音の差止を認めなかったばかりか、将来にわたる賠償さえも認めなかったものであり、旧訴訟以来28年もの長期間にわたって違法騒音の存在を認定し続けながら、将来にわたる救済を頑なに拒む裁判所の態度には,憤りすら感じざるを得ない。
  さらに、本判決は減額法理として、危険への接近を認めたほか、ごく一部とはいえ被告国の免責を認め、損害賠償を否定した。しかし、最高裁が違法と断じた基地騒音について危険への接近法理を適用することは、むしろ危険の居座りを公認したも同然であり、厳しく批判されなければならない。
  このように本判決については一定評価をすることはできるが、とうてい認められない判断の誤りが含まれていると言わざるを得ない。訴訟団・弁護団は早急に控訴の手続きを進める意向である。
  静かな眠れる夜を取り戻すために、我々はさらに結束を強め、訴訟の場にとどまらない多角的な運動によって、違法騒音差止の実現をめざす所存である。
2002年5月30日     新横田基地公害訴訟団
               新横田基地公害訴訟弁護団
周辺自治体要請行動
判決の翌日、訴訟団、弁護団は被害地域にあたる自治体を訪ね要請を行いました。 判決の報告、行政として騒音被害解消への努力強化、軍民共用空港化に反対してもらいたい等要請しました。
・羽村市 判決内容を吟味、検討した上で基地公害の緩和、解決に向けて応分の力を傾ける。
 
・八王子市 民事訴訟にはコメントできなが、NLP中止要請など事態に応じ対処する。

・福生市 先日のジャイアントボイス訓練は住民から苦情が相次いだ。抗議もしたが、被害解消に向け努力を続ける。

・昭島市 助役、企画部長は軍民共用は市として反対を表明しているが、周辺五市が足並みをそろえるよう努力したい。

・日野市 被害変わらないのに新コンターはおかしい。今後も協力していきたい。

・瑞穂町 箱根ヶ崎開発地域はほぼ八五Wだ。軍民共用空港化は反対せざるを得ない。

・立川市 軍民共用は反対だ。特に中里地区は被害がひどい。改善に努力したい。

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